高知簡易裁判所 昭和38年(ハ)336号 判決
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〔判決要旨〕復代理人のなした権限ゆ越の行為についても、代理人の権限ゆ越に関する民法の規定に包含せしめてこれを律するのを相当とする。
〔判決理由〕以上の事実に基いて、以下訴外福田、羽方及び斉原等のなした行為の効果を検討する。
1 先ず被告と訴外福田との間の法律上の関係を案ずるに、被告は同訴外人に対し、同訴外人が他から借用すべき金二万円の債務の担保として、自己所有の一畝一八歩の田地に抵当権を設定し且つその登記手続をなすべき権限を付与した委任に基く代理関係にあつたものである。
2 被告と訴外同斉原の両名間には、本来直接には何の関係もなかつたものであるところ、被告が訴外福田に右代理権を委任するに際し、被告は同訴外人がその受任事務を自ら処理せず仲介人等第三者に依頼して行わしめる場合をも暗黙のうちに諒承して授権したものである関係上、畢竟被告は同訴外人に復任権を許諾したものと見るべきであり、この許諾に基いて同訴外人がその受任事務を処理せしめるため選任したのが訴外羽方及び斉原の両名なのであるから、従つて右両名は被告のためには復代理人たる地位にあつたものというべきである。
3 ところで被告の代理人である福田は、右第(四)項以下に見てきたように、その選任にかかる復代理人たる羽方及び斉原の両名をして、前記二筆の田地に対し次の金六万円の債務のため抵当権設定の手続をしてその登記を完了したのみならず、しかも被告のため被告を借主として原告主張の貸借内容により金六万円を借入れたものであつて、右は全く受任の範囲を逸脱した権限外の行為である。
民法は代理人の権限ゆ越の行為についての本人に及ぼす効果を規定しているところ、本件においては右に明らかなように、その行為に直接携わつたのは代理人ではなくて復代理人である。しかし復代理人は本人及び第三者に対して代理人と同一の権利義務を有し、そのなした行為の本人に及ぼすべき効果は、代理人のそれと異るところはないのであるから、こうした復代理人のなした権限ゆ越の行為についても、代理人の権限ゆ越に関する右規定に包含せしめてこれを律するのを相当と解する。
4 次に原告は、右貸借にあたり訴外清美の代理人たる原告において、訴外羽方及び斉原の両名に被告を代理する権限ありと信じてなした旨主張し、その理由として、該債務を担保する旨の抵当権設定の登記済証の提示されたことを主張する。
5 思うに不動産に対し、その所有権の登記名義人が登記義務者として抵当権設定の登記を申請するについては、市長村長或は区長の証明を得た印鑑、該印鑑に符合する印影の押捺された申請書類(本人の出頭しない場合には委任状)及び所有権の登記済証すなわちいわゆる登記権利証等の提出を要し、もし登記権利証が滅失した場合においては、登記義務者の人違いなきことの法定の保証書の提出を要する等、極めて厳格な手続が要求されている。而してかかる手続の完備によつてはじめて登記申請が受理され、その登記の完了を俟つて登記済証の下付を見るのである。
6 かように抵当権設定の登記が厳格な手続を要求されているところから、登記義務者の印鑑若しくは登記権利証の偽造若しくは盗用等の如き稀有の場合を除き、登記義務者の関与なくして登記のなされるのは容易なことではなく、従つてその登記の完了を証する登記済証の提示された場合においては、登記にいわゆる公信力がないとはいえ、一応真正にその登記がなされたものとして、取引上高度の信用を得ているのが実情である。そうしてもしその登記が本人自らの手によつて申請されたものでなく、代理人の行為によつて登記が完了し、その代理人より該登記済証の提示と共に本人の名において該登記の被担保債務額の金融の申込のあつたような場合においては、代理人に真実金借の代理権がなかつたとしても、右の如き登記手続の厳格性延いては登記の高度の信用性に鑑み、相手方たる第三者としてはその代理権があるものと信ずるのが一般取引界の通例であろう。
まして本件においては、被告の代理人福田には前記の如き代理権があり、この権限をゆ越して復代理人羽方及び斉原両名をして前掲行為を為さしめたのであつた、しかも被告と右福田間の極めて親密な特殊関係、殊に金員の融通或は実印までも預けていたという信頼度の高さないしは登記権利証の交付等の如き諸般の事情を客観的に観察するならば、訴外清美の代理人たる原告において、被告の復代理人羽方及び斉原の両名が右福田のゆ越せる行為をなすにつき、被告を代理する権限があるものと信じたというのは、蓋し当然というべきであつて、そのかく信ずるにつき、取引の安全性保護の見地よりして、正当の理由があつたものとなすべきである。それゆえ被告は本人としての立場上、右福田乃至は羽方及び斉原等の権限外の行為につきその責に任ずべく、従つて原告主張の訴外清美の貸付けにかかる本件六万円の金員につき、その借主としての義務を負わなければならない。(市原佐竹)